人口減

日本の少子化 百年の迷走: 人口をめぐる「静かなる戦争」 (新潮選書)
 
という本を読んだ.日本の出生率が低くなるきっかけをGHQが意図的に与え,きっかけが与えられた後は,各種政策や民間のキャンペーンによって,日本人が自発的に少子化傾向を定着させた,とざっくり言うとそんなことが述べられている.
 
著者は,少子化の直接の原因は,様々なキャンペーンの結果行き渡った「行き過ぎた個人主義」にあると言いたいようだが,この辺りは著者の個人的な見解だろう.想像だが,こんなことを言う人に「もっと個人主義的なフランスやドイツの出生率は,日本よりも高いではないか」と言うと「彼らの個人主義は本物で,日本人のは幼稚な偽物だ」みたいな反論が返ってくるんじゃないか?要するにこの辺は結論ありきなのだ.
 
この本の価値はそういう思想的なことではなく,豊富な資料にある.驚くような事実がいくつも載っていて一挙には紹介しきれないのだけど,1942年に厚生省が出した日本の将来人口予測がすごい.戦前も少子化傾向は徐々に進んでおり,政府は危機感を持っていたが,このまま行くと2000年には人口が減少に転ずるとしている.彼らは,日本が戦争にボロ負けすることも,戦後ベビーブームがあることも,アメリカの思想が大量に入ってくることも,高度経済成長があることも,その後,経済停滞があることも,な〜んにも知らないのに,当時のヨーロッパ諸国の人口動態を参考にして外挿しただけなのに,これだけの予測が出来ている.人口のピークアウトは現実よりわずか10年弱早いだけだ.これではGHQが手を出そうが出すまいが関係なかったのではないか?と思うが,私は人口学者でも何でもないし,著者の主張についてとやかく言う気はまったくない.
 
ただ,そういう事実を素直に見れば,個人のものの考え方など日本の少子化には結果的に無関係だった思えるのだ.だから,少子化対策に偉そうな説教は効かない.