経験 VS. 学歴(2)

平原依分さんの主張によれば,
 
親の収入が多い --> 手厚い教育 --> 有名大学入学 --> 「良い企業」に入社 --> 高収入
 
という流れがあるために若者の間に格差が広がるのだ,ということになる.学歴以外の選考基準を提案することは良いことだが,この考察は正しい(というより実態に即している)のだろうか?
 
なぜなら,学歴重視なのは,応募者が殺到する有名企業だけだからだ.そういうところでは,学歴フィルターを掛けないと現実的な労力で選考ができない.
リンク先の表では,大企業とは,製造業だと,従業員数300人より多くて資本金も3億円より多い企業のことだ.そしてそのような企業の従業員数は全企業の従業員数の1/3くらいである.私の勤めている大学は入試偏差値50くらいだが,従業員数300人くらいの企業ならいくらでも採用されている.ということは,有名大学の卒業生でないと就職できないような企業は,もっと大きな企業であり,従業員数は日本人の中でも1/3よりはるかに少ないということになる.ちなみに,いかにも応募者の殺到しそうなイメージのある従業員数5000人以上の企業数は0.03%しかない.
 
要するに大部分の企業は事実上,大学名で新人を選んでおらず(そうするほど応募者はいない),大部分の若者は学歴とは無関係に就職している.公務員試験は大学によらず受けられるのだから,これも学歴は選考に影響しないと言って良い.要するに本人の能力次第である.
 
一方,一握りの若者が「良い会社」に就職した結果,良い思いをしているか,というとそうとは限らない.平均すれば高収入ではあるだろう.しかし,ぶっちゃけた話,高学歴者には優秀な人が多いのは事実であって,その中でそれなりに自分の立場を守りながら成果を上げ続けるのは,イージーモードの人生でもない.
 
付け加えるなら,年収1000万円を超えるためには,トヨタなど超大手を除けば部長以上になる必要があるが,部長とは100人の中の1人である.100人中1番になるのは相応の努力と能力の結果であって,誰も文句は言えないだろう.転職するときに,「あなたは何ができますか?」と問われて「部長ができます」と言った企業幹部がいたという笑い話があるが,部長の大変さを知っていたら笑える話ではない.
 
それにそれに,「大企業に就職したって安泰とは限らんぞ」とは,近年よく言われる話だ.格差問題では大企業へ就職することが有利と言い,若者へのキャリアサポート的な文脈では大企業をディするメディアのご都合主義にはうんざりだ.
 
それでも,平均としての高収入が高学歴の見返りとして与えられているのがけしからんというなら,まあ,一考の余地はあるかも知れない.それでも,(格差解消をとりあえず正義だとして)学歴重視選考に原因を求めるのは的外れと思う.
 
ーーー
後日追記.
記事を書いたときは,中卒,高卒,大卒の違いについてぼんやりとしか考えていなかった.普通大卒で就職する企業に高卒生が入社することは,本人の能力次第で十分に受け入れて良いことだと思うが,履歴書に書かないというのはどうか.だって全く異なる経験をしてきたのだから.