プロジェクト失敗のスピーチ

新規事業ばかりを担う事業部に属したことがあった.新しいプロジェクトがいくつか走っていたが,その中の最も大きなものは,家庭排水をどうにかするという製品(敢えて曖昧に書きます)で,会社の本業である機械製造とはかなり離れたものだ.これがどうしても軌道に乗らず,結局,事業部そのものをたたむことになった.原因は頻発する不具合を遂に収拾できず,大手ユーザーから出入り禁止を言い渡されたことだ.これは前代未聞の失態だ.

 

事業部解散が決まった少し後,部員が集まって飲み会を開いたとき,件のプロジェクトリーダーをしていた部長級の人が,スピーチの中で言ったことがこれ.

 

「・・・配管に脂肪酸塩が詰まるという不具合が中々なくなりませんで・・・手を変え品を変え対策を打ってみたのですが・・・ある時,脂肪酸塩って脂肪だろ?じゃあ,加熱すれば溶けて流れるだろうってんで,ヒーターを巻くことにしたんですね.実験もやって品質保証部の〇〇さんにも『ここまでやれば大丈夫だろう』って太鼓判押してもらって,送り出したんですが,実は『脂肪』じゃなくて『脂肪酸塩』だったって落ちなんですわ・・・これは簡単には溶けません!!・・・いやはや・・・」

 

これを聞いて,文字通りめまいがした.なにそれ?部長の思い付きがとどめだったの?
プロジェクト末期にはグループの雰囲気がかなり悪くなっていたことは知っていたので,ほんとに裸の王様だったんだなあ・・くらいの感想を抱いたものだった.

 

にしてもである.この間違いに気づくチャンスは余りにも多くあった.現場からサンプルを採取・分析した技術者や部長の指示で「脂肪」の実験を担当した技術者は言わずもがな,切れ者で通っていた部長自身も固唾を飲んで見守っていたのだから違和感を感じるはずだ.要するに,事業を終わらせるための一種の狂言だったのではないか,と思うわけである.

 

事業部が解散されても部員が失職するわけではないから,成功の見込みがない部署から解放してやろう,と部長は思ったのだろう.あるいは,事業を無理やり継続する場合の部員の会社員人生を背負う重圧には耐えられない,と思ったのかもしれない.だから,最も揉めない方法として自爆したというのが今の私の推測なのである.

これでもうまくいけば,VHS開発秘話みたいになったのだが,現実はそう甘くない.